SSブログ

過酷な撮影 [オーロラ撮影]

オーロラの撮影は、想像はしていたがやはり過酷だ。
以前フィンランドへ行き、銀塩でオーロラを撮影したが、今回は気温にして更に10℃~15℃低い。それだけでなく、デジタル撮影であることゆえの、また違った過酷さがそこにはあった。

080304-YKAW-GEAR-2.jpg

以下の記事は、私がオーロラ撮影において個人的に試した方法を紹介したものであり、オーロラ撮影及び低温下での撮影の、全てのシチュエーションをカバーできるものであるとは限りません。また、機材故障や怪我等を引き起こすなどのリスクもあります。本記事において紹介させて頂きました方法を試みた場合に発生するいかなる損害も、当方では責任を負いかねます。誠に申し訳ございませんが、あらかじめ、ご了承ください。


----- 電池の問題 -----

 銀塩で撮ったその時との大きな違いは、デジタルの場合カメラが電子機器であるということ。これが飛躍的に悩みを増やしてしまうこととなった。前回持っていった銀塩カメラは、電子シャッターではあるものの、M90及びバルブは電池無しでも動くマニュアルシャッターであったため、まず電池の心配はまったく無かった。オーロラ撮影では、基本バルブで切れば事足りるからだ。しかしデジタルカメラは電池が無くては何も動かない。電池の問題をクリアしなければならないことは、出発前から容易に想像できた。
 インターネット上を探し回るも、大きな書店でオーロラの撮影に関する本を探しても、デジタル撮影時の電池の問題など、どこを探しても見つからなかった。それではと、インターネット上の情報の検索範囲を日本に限らず探してみると、そこには素晴らしいノウハウを惜しげもなく提供されているプロの方がおられた。このサイトでは、”バッテリーは最低2個、あるいはそれ以上持っていくこと”と書かれていた。
これは大変参考になった。
 撮影してみてわかったのは、電池はいかに容量が大きくとも、極低温下では、あっというまに能力が低下し使えなくなってしまうと言うこと。これは同行した他の方のハイエンド一眼(1DsMarkII, D3等)でも同じであった。そしてもう一つ解ったことは、一度使えなくなったバッテリーでも、温度が戻ることにより復活すること。これは、使えなくなったバッテリーをあたためてからカメラにセットし、電池チェック機能で残量を確認すると、およそ80~90%の残量が表示されることでわかったことだ。初日にこれが判明したので、バッテリーは満充電の状態のものを2個持って行き、撮影時以外は体に近い(重ね着の中で体に近いところ)ところの内ポケットに入れておき、可能な限り保温しておくようにした。いざオーロラが出始めたら、バッテリーの一つをカメラにセットして撮影。30分もたたぬうちにカメラの動作があやしくなってくる(液晶の表示が遅い等)ので、これを感じたらすぐに暖めておいたセカンドバッテリーに交換し、外したバッテリーはまたすぐに内ポケットに入れて次の出番に備える。この方法を続けることで、途中撮影が出来なくなることは一度も無かった。ただし、この方法はカメラ自体の消費電力や、バッテリーの容量にもよるので、心配な場合は3つ、4つと複数持つことが必要かもしれない。


----- 低温及び結露の問題 -----

 先にも述べたように、デジタルカメラの場合、内部は非常に精密な電子機器であり、結露は非常に深刻なトラブルの原因となる。一般的に低温環境下から、急に高い温度の環境へとカメラやその他機材を移動させた場合、結露は発生する。そこで今回は、一度三脚にセットした持ち出した機材は、撮影終了まで待機所へは持ち込まないようにした。もちろんその際は、メモリーカード及びバッテリーは抜いておいた。今回、バッテリーは保温のため内ポケットへ、CFカードは外ポケットへ入れて保護することとした。しかし、写真の通り、カメラにとってはかなり過酷な状況だったようだ。しかし、驚いたことに、長い日はおよそ5時間放置した日もあったが、こんな状態になってもトラブルも無く、NikonD300は始終安定して動作してくれた。

080304-YKAW-GEAR-3.jpg

 それでもむき出しで-30℃以下の屋外に放置しておくのも気がひけたため、気休めかもしれないが、屋外放置時にはフリース素材のマフラーのような布を持参し、それを巻きつけるようにして保護した。直接外気に触れないようにしておくのが、カメラに対する最後の気配りかもしれない。いくつかのカメラメーカーからも、防寒用のプロテクターが販売されているようだが、このように-30℃を下回る環境ではいとも簡単にカチカチに硬くなってしまい、かえって使いにくいと聞いていたため、準備はしなかった。現地で他の方の装備を見てとても興味を惹かれたのは、ノートPC用のフリースケースの真ん中にレンズ用の穴をあけたもの。安い上にそれほど硬くならず、ジッパーを開け閉めすることで、簡単に取り付け取り外しができる点が非常に優れていると感じた。
 結露と言えば、レンズも非常に注意せねばならない。前玉方向から覗き込むのは厳禁だ。なぜなら、わずかでも息がかかると、極低温の状態のため、あっという間に前玉は曇ってしまう。せっかく色々な工夫をして撮影しようとしているのに、レンズが曇って眠い写真となってしまっては、苦労も水の泡である。
 なお、撤収時にはカメラが入る大きさの、密閉できるジッパー付きのビニール袋などに入れ、湿気を含んだ暖かい空気に急に触れないようにすると良いようだ。今回は(大)サイズのフリーザーバッグを多数持参し、撮影終了したカメラ等の機材をこれに入れ、さらにカメラバッグに入れることで、徐々に慣らす方法を取った。なにせ、ホテルの中は20℃近い室温である。50度以上もの温度変化を、いかにゆっくりとなじませていくかということは、カメラをいたわるために出来ることの中で、最後の愛情とでも言えるものだ。


----- 極低温の問題 -----

080304-YKAW-GEAR-1.jpg

 オーロラ観測は、今や秋や春でも観測できることが知られるようになりつつあるにも関わらず、何ゆえ一番寒い時期に行われることが多いのか...それは、気温が低ければ低いほど、雲が出にくくなる傾向があるためである。ご存知の通り、オーロラは地上100km以上に発生するもので、高々3km程度までの高度において発生する雲は、その美しい光景いとも簡単に覆い隠してしまう。貴重なお金と時間を使ってかの地へ赴くのであるから、やはり観測の可能性は高ければ高いほど....と考えるのも普通であろう。それ故、どうしても寒い時期に行くこととなってしまう。-35℃の世界は、やはり過酷だったのである。
 先に述べた低温に対するカメラへの対策を行ったことで、万全と思われた撮影であったが、予想外の事態に戸惑ったこともあった。一つはレリーズである。

080611-release-1.jpg

 最終日になり、オーロラ観測&撮影もあと1時間足らずというところで、カメラの近くから、”ミシッ”という音がわずかに聞こえてきた。確認するとレリーズの根元部分の、ケーブル外皮が裂けていた。その後は慎重に撮影を続け、無事終了まで持たせることが出来たが、さらに内部の線まで切れていたら、快適な撮影はおろか、残りの時間の撮影を諦めなくてはならなかったことであろう。
 また、撮影に直接影響は無かったものの、意外と苦労したのは、三脚の撤収時、ネジが非常に硬くなってしまうことで、脚を収納できなくなったことだ。結局無理をせず少しあたためてから、ゆっくりと行ったため問題なかったが、ついいつものように収納しようとして、メス側のネジが割れてしまった方がおられた。高価な輸入三脚だっただけに、ショックも大きかったことだろう。


----- 暗さの問題 -----

 オーロラは、街の明かりの無い、真っ暗な場所で観測するのが望ましい。ゆえにイエローナイフでも、オーロラ観測施設は街からかなり離れた郊外にある。当然観測地内も非常に暗いため、カメラの操作もできないほどである。人によっては懐中電灯を準備されていた方がいらっしゃったが、他に撮影されている方がいることも考えて、使用は控えた方が良いだろう。赤いフィルターをかけた懐中電灯をお持ちの方もいらっしゃったが、それでもやはり明るいため、向け方によっては他の方へご迷惑になることも考えられる。可能であれば、真っ暗闇の中でもカメラ操作が問題なくできるよう、事前に練習しておく方のが得策ではないだろうか。
 暗闇の中での撮影で、もうひとつ重要なことは、ピントが合わせられないことである。AFが動作しないことはもちろんだが、MFでもファインダーの中はわずかに景色が見えるだけで、ピントあわせは無理だ。明るいうちに、かならず無限出しをしておく必要がある。
 同じくファインダーの中のオーロラは、肉眼で見るそれよりもさらに暗く、周囲の木々もかなり見えにくい。同行した人のなかからは、”もしかしてレンジファインダーがいいのでは?”という意見が出たほど。
 ただ、残念なことに、今回はLiveView機能は試せなかった。オーロラの姿をLiveViewのLCDで捉えることは出来ないかもしれないが、ひょっとしたらという気持ちもある。次回がもしあるなら、ぜひ試してみたいものである。


---------------

そして、これら対策を可能な限り行い、オーロラ撮影に望んだのであった。

nice!(11)  コメント(6)  トラックバック(0) 

nice! 11

コメント 6

あおかもめ

こんな過酷な状況の中での撮影だったんですね!
フォトの方で『綺麗!実際に見てみたい』な~んて軽々しくコメントしちゃったのが申し訳ないくらいです^^;

by あおかもめ (2008-06-12 09:56) 

IsPhoto

あおかもめさん
ありがとうございます。
いえいえ、コメントいただけて嬉しいです。
確かに過酷な条件でしたが、撮影中は夢中で、楽しかったです^^
by IsPhoto (2008-06-12 22:49) 

ldev9

はじめまして。
やはり過酷な状況での撮影は予想外のトラブルが起きますよね。

一つ気になったのですが

>>30分もたたぬうちにカメラの動作があやしくなってくる(液晶の表示が遅い等)ので

これは、バッテリーじゃなくて液晶の性能低下による残像じゃないですか?(特に映像の切り替わりが遅い)私はスチルではなくてDVでしたが、現場では残像が酷くてほとんどモニタが役に立たなかった経験があったので。(余談ですが、このときファインダーに切り替えるためちょっと変な角度からモニタを閉じようとしたら、ヒンジが割れてしまいました)
by ldev9 (2008-07-07 11:54) 

IsPhoto

ldev9さん
コメントありがとうございます。
おっしゃる通りです。
バッテリーよりも先に、液晶の表示性能低下が始まりだすので、そのタイミングでバッテリーを入れ替えておけば、撮影が止まることは無いだろうという考えから、液晶が動きにくくなったら、それはバッテリー交換のアラームと考え、交換のタイミングとしました。
画像確認で一枚一枚順に送りながら表示させると、スライドショーのように各コマごとにフェードアウト/フェードインみたいになって、ちょっといい感じに見えました。(液晶は一生懸命頑張っているのでしょうが...^^;)
モニタのヒンジ破損とは驚きですね。確かに何もかもが硬くなっているでしょうから、破損しやすいのかも知れませんね。
私はメガネかけですから、万一の事態に備え(?)、パイロットさながら、予備メガネも持参しました。^^
by IsPhoto (2008-07-07 23:22) 

ldev9

そういうことだったんですね。この方法はいいかもしれませんね。(インジケーターは表示がころころ変わって当てになりませんからね)私はそのときはインジケーターが0になるまで撮影を続けたんですが、バッテリーが切れる前後は電圧が不安定になるようで帰ってきて映像を確認したら後半一部、ノイズが発生してとてもショックでした。

>フェードアウト/フェードインみたいになって、
まさにその通りです。特にDVは設定変更をスイッチではなくモニタを見ながら行う項目が多いので、設定が変わったか確認できず苦労しました。

>モニタのヒンジ破損とは驚きですね。
結露でテープが止まらないかということばかり考えていたのでヒンジが割れたのは驚きました。私自身初めて個人で買った業務機だったのでショックも大きかったです。(修理代も高くて…)「まぁ許容温度外の環境持ってったんだし映像も残せたから」と諦めがつきましたが。

by ldev9 (2008-07-08 03:35) 

IsPhoto

ldev9さん
そうなんです。バッテリーが不安定になると、どんなことが起こるかわかりませんので、安全を見てのことなんです。なんせカメラにとって、すでにスペック外の使い方ですから...
DVでは確かに設定はモニタ上ですね。もちろん私のカメラもモニタ上での設定は色々あるのですが、基本決め打ちですし、あとはシャッター開放時間の調整をマニュアルで行うだけ。ピントも無限遠固定でしたし...

>「まぁ許容温度外の環境持ってったんだし映像も残せたから」
そうですね。スペック外の使用環境は、自己責任ですし、映像が残っただけでも...っていうのは納得です。

今回一緒に行かれた方の中には、HDDカメラ持っておられた方がいらっしゃいましたが、しっかりと空を揺れるオーロラが写っていました。
オーロラ爆発の瞬間は、あたりから湧いたどよめきが一緒に記録されていて、臨場感満点でした。こういうところは動画のすごいところですね。
by IsPhoto (2008-07-11 00:09) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

イエローナイフへ光は雲の上に... ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。