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横木安良夫 Talking About ロバート・キャパ with 五味彬 [写真]

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2010.10.23(土) に行われた、Shinc五味彬(ごみあきら)氏主催によるワークショップ
「横木安良夫 Talking About ロバート・キャパ」に参加した。
私が写真を始めた頃、初めてキャパの「崩れ落ちる兵士」を見たときの衝撃は今も忘れない。そして東京都写真美術館の壁面に展示されている「ノルマンディー上陸作戦」の作品もとても印象深い一枚だ。
キャパに影響を受けた人は非常に多いだろうが、もちろん私もその一人。そんなわけで、このワークショップはとても楽しみにしていた。
 
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ワークショップの冒頭は、「キャパとはどんな人か?」というところから始まった。キャパを知らない人もまずは興味を持ってもらおうとの配慮だったようだ。キャパについて自分では結構知っているつもりだったが、話を聞いていくと実は知らないことも多く、大変興味深い。

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そして資料等をプロジェクタで投影しながらの説明。

横木氏は、キャパが日本に来た際の行動について非常に詳しく調べておられ、それを一つ一つ詳しく説明された。中でもキャパが日本各地で残したエピソードの話が大変面白い。伊豆には現在も彼の撮影した写真が飾られているレストランが残っていることや、”富士山”や”桜”といったいかにも外国人が興味を惹かれそうな被写体でなく、そこにいる”人”を中心に写していたらしいということなどが、横木氏の検証により日単位で徐々に判明していくかのように説明された。
キャパは、日本各地で膨大な数の写真を撮ったようだが、特に浅草は、彼自身「Pictorial Paradise」と表現したというほど、彼が興味を惹かれる被写体が多かったらしい。
また、この時始終キャパに同行した金沢秀憲氏を取材したときのエピソードも大変面白い。

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そしてキャパは日本滞在中に、ライフ社よりインドシナ戦争の撮影を打診される。
既に「戦争の写真は撮らない」と公言していたキャパだが、なぜかこのオファーを受け、ベトナムへと飛ぶことになる。そしてそこで命を落とした。

その経緯について、独自の取材を基にし、”その時”に一つ一つ近づいていくかのような話が続く。
カメラマンとして行軍に同行しながら、キャパが撮影し続けた写真が次々と紹介された。
それらは、いわゆる”戦争写真”だけではなく、ジープや軍のトラックの前に、牛を曳いた農民の姿が写っていたり、”戦争”と”現地の人の日常”が対比されるかのような構図が多い。
そして、「なぜキャパが地雷を踏むことになったのか...」について言及して行くこととなる。
キャパは”水牛作戦”に同行し、ドアイ・トンの要塞にたどりつく。最初はここで”要塞を撮る”と公言していたにも関わらず、不思議なことに、実際はほとんど撮影せずに先へと向かってしまった。
その後、キャパのラストカット(横木氏のblog参照)を撮影した直後、その写真に写っている右前方の土手の上に登ったところで地雷を踏んでしまい、帰らぬ人となってしまった。

キャパはラストカットを撮影したのち、次のカットを撮影しようと土手に登るまでの間に、35mmから50mmにレンズを交換していること。そして、キャパのような戦場には慣れていたはずであろうカメラマンが、なぜ土手を登り地雷を踏んでしまうことになったのか。これら疑問について、”カメラマンである自分が、「俺がその場にいたら...」と考えると....”という言葉に続いて、”ベストなアングルを探してベストポジションにつくためにそういう行動をとったのではないだろうか”と横木氏は考えているとのこと。
実はこの時、フランス軍側の戦況は悪化の一途をたどっていた。そしてラストカットを撮影したまさにその時、キャパらの行軍の背後で、敵に奪われて利用されないようにとドアイ・トンの要塞が爆破された。おそらくはその煙が彼には見えたはずである。そして後ろを振り返った時にはまるで煙の方角から兵隊が敗走してくるかのような光景に見えたのではなかろうか。キャパはこれを撮影することで、悪化する戦況を彼なりの意図で、写真に残そうとした可能性があるとのこと。非常に説得力のある理論だと思った。

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そしてキャパに関して書かれた書籍の中で一番有名な「ちょっとピンぼけ」の紹介。
横木氏も五味氏も、学生時代には大変な興味を持って読んだらしい。今回大変貴重な初版本を持って来られていた。

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五味彬氏も加わり、氏が学生時代に感じたキャパの印象を語ってくれた。

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横木氏の著書「ロバート・キャパ 最期の日」

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横木氏のキャパに関する取材ノート。中も見せてもらったが、あらゆる情報が書かれていて非常に興味深い。
このページはキャパの葬儀の模様を撮影した写真が貼られていた。

ところでこの日は、マグナム・フォト東京支社 ディレクターの小川氏も来られており、多くの貴重なお話を伺うことができた。”キャパ自身は今頃、まさか自分の写真が額に入れられて美術館に飾られているとは思ってもいないでしょうね。”という氏の言葉が、キャパの写真とその背景についてのすべてを表すのではなかろうかと感じた。

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ワークショップは予定のプログラムを終えて終了したが、多くの人が残って横木氏、五味氏に質問をする光景が遅くまで続いた。
非常に面白い話がたくさん飛び出したワークショップであった。

五味氏は不定期に様々なテーマでワークショップを開催されている。
海外でアシスタントを経験している五味氏は、”写真で稼げるようになったあかつきには、後に写真を学ぼうとしている人に対してその技術や知識を伝えて行くことは写真家の義務だ”と、師匠にいつも言われていたとのこと。その哲学が今も、ワークショップを行う情熱になっているのだろうと思う。

今後も様々な形でのワークショップが開かれる予定とのこと。
スケジュールは氏のblogや、Twitterで告知されています。興味のあるかたはチェックしてみてはいかがでしょう。

五味氏、横木氏関連リンク

五味彬氏
WebSite : http://ag-works.blogspot.com/
blogその1 : http://gomidar.blogspot.com/
    誌上ワークショップとも言えるような、黄金比や視覚心理学に基づいた絵作りの記事があります。
blogその2 : http://gomidar-one.blogspot.com/
    News & Informationのblog スケジュールなどもこちらにあります。
Twitter : @gomidar
       http://twitter.com/gomidar

横木安良夫氏
WebSite : http://www.alao.co.jp/
Blog : http://alao.cocolog-nifty.com/the_eye_forget/
ロバート・キャパ最期の日:http://www.alao.co.jp/RobertCapa/CapaIndex.html


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コメント 2

cjlewis

う〜ん、実に興味深いです。
私も、キャパは、まさか自分の写真が後年、
美術館に飾られることになるとは思ってもいなかったと思います。
でも、実は報道写真も、アートとしての写真も根本は同じ。
そこに込められた思いやメッセージが人の心を動かすんですね。
五味さんのされている活動も素晴らしいと思います。
今度、ぜひ、参加してみたいです!
by cjlewis (2010-10-24 18:44) 

IsPhoto

cjlewisさん
今回初めて見た、キャパが撮った戦争と日常の対比の写真の数々...対象の対比だけでなく、位置関係とか大きさとか、そんなバランスも絶妙な印象を受けました。
それまでの写真よりも、より円熟さを増したというか...このあたりの作品を目にする機会が無かったので、そういう意味でも非常に貴重なワークショップでした。
来週からは五味さんの写真展も始まります。その会場では毎日ワークショップを開催しているようです。上のリンクにてスケジュール出ていますので、ぜひ参加されてはいかがでしょう。Yellowsだけでない、五味さんのすごさがわかるかもしれません。(ヘンなおやじギャグに惑わされないように...(笑)

by IsPhoto (2010-10-26 00:04) 

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