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鹿野貴司 写真展 「甦る五重塔 身延山久遠寺」 - 匠の込めた「魂」 - 金剛組 [写真]

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鹿野貴司氏の写真展、「甦る五重塔 身延山久遠寺」を見に銀座へ。
もっと早く見に行きたかったが、ようやく最終日に間に合った。
  
 
前回のBeijinscapeも大変興味深い写真の数々であったが、何といっても今回はあの「金剛組」の仕事を追った作品であるとのことで、とても楽しみにしていた。会場に到着しご挨拶を...と思ったが、さすがに人気者の鹿野氏、来場者の応対に忙しい様子だったので、会釈だけしてまずは作品を拝見した。

鑿(のみ)が木を砕く光景は、Beijinscape同様、「瞬間の美しさ」を感じる作品であったが、加えて、潔いまでに闇に浮かび上がり、光で研ぎ澄まされたかような姿の五重塔は大変美しい。
拝見する前は、職人の方の気迫を感じるかのような作品が多いのではと期待していたのだが、それだけにとどまらず、その建設経過を細やかに捉えた作品など、鹿野氏の感性を通して描かれた建設現場の時の流れを感じる作品の数々であった。
 
その後2階の実演を拝見した。氏がブログで書いておられる通り、私もなかなか1階に戻ってこなかった一人。その実演に、しばらく見とれてしまったのだった。
 
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木鼻の制作過程。合わせて設計図(デザイン画)も展示されていた。設計図は思いのほかシンプルで、平面図だけで深さや斜面の角度等、一切の立体情報が無いものであったが、職人はここからデザインを描いた人の意図を読み取って木の上に表現をしていくのだと言う。まさに阿吽の呼吸。こういったところにも、日本人の感性や文化が息づいていると感じた。

職人がその技術を競い合って様々な形状が生まれたのだと言う、木組みの模型も展示されていた。
実際に組んだり外したりできるようになっていたが、あまりの精度の高さに、いくつかの模型は分解することすらできないほどであった。知り合いのある大工に聞いたことがあるが、古い建物を解体する際、これら木組みの部分を分解すると、その柱の内側の接合面に、この細工を施した大工のサインが現れてくることがあるのだと言う。建築当時にこの木組みの内側に自らの誇りを込めて記したサイン。とてつもない”粋”を感じるのは私だけだろうか。

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木目の方向だけでなく、木の部分部分、それぞれの特性を考慮し、都度適切な形状の彫刻刃を巧みにあやつりながら素晴らしい造形を形作る姿の、その刃先の動きに注視しながらシャッターを切った。

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職人の道具箱の中は、あらゆる形状の彫刻刃がずらりと並ぶ。本当に素晴らしい職人の道具は、どの世界でも例外なく手入れが行き届いていると感じた。

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彫りあがった作品を横から眺めてみると、想像以上に深さがあることに驚いた。そして美しく滑らかなカーブを見ると、あることに気がついた。それは、彼の周りに一枚たりともサンドペーパーが無いこと。聞くと、ペーパーがけをあえてしないのだと言う。ペーパーがけをするよりも、彫りの跡をそのまま残した方が、かえって風合いが出るのだと言う。それにしても、あまりにも滑らかな曲線にとても驚いた。

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今までは、神社やお寺は初詣や観光で行くだけだったが、こうして木鼻の制作過程の一端を目の当たりにしたことで、これからはこういった技術の粋を見ることももう一つの楽しみとなることであろう。

飛鳥時代の西暦578年、金剛組の歴史は始まった。もちろん日本で最古の企業、いや、もしかしたら世界最古かもしれない。聖徳太子が摂政となった593年より、さらに15年も前のことだ。
聞くと、現代において五重塔を建てる計画はまずあり得ないほどに珍しく、今回の身延山の事例は大変貴重なのだとのこと。飛鳥時代、いや百済の国ではもっと前から育まれ、現代まで綿々と受け継がれてきた技術。目の前で繰り広げられる技を見ていると、これからもずっと受け継がれていってほしい技術であると感じた。



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cjlewis

大工さんのサインの話、私も聞いたことがあります。
自分の仕事に対する誇りの現れなんでしょうね。

今、とにかくいろんな写真があふれてて、
一部ではプロとアマの境が曖昧になり、
雑誌の写真レベルは低下する一方。。。
100年後、いえ、20年後に
どれくらいの写真が残ってるんでしょうかね。
そんなことを考えてしまいました。
by cjlewis (2010-12-01 13:58) 

IsPhoto

cjlewisさん

大工さんのサイン、文句なしにかっこいいですよね!

私の印象では、プロとアマの境は昔からあいまいだったのではないかとも思っています。植田正治さんのような方もいらっしゃいましたし。プロとアマは、腕の差というより、お客様から気持ち良くお金を払ってもらえる人がプロなのかなと感じたりもしています。そのために、プロはアマチュアからは想像もつかないほどの大変な努力をされているのではないでしょうか。

技術的な問題もあるかもしれませんが、100年後も残る写真が現れてほしいですよね。

by IsPhoto (2010-12-03 00:19) 

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